ノックアウトマウスとは
ノックアウトマウス(Knock-out mouse)とは遺伝子操作により1つ以上の遺伝子を欠損(無効化)させたマウスのことです。遺伝子の塩基配列は決定しているものの、その遺伝子産物の機能が不明な場合にその機能を推定するための重要なモデル動物です。
また、組織特異的に遺伝子を欠損できる条件付ノックアウトマウス(Conditional Knock-out mouse)も近年は盛んに作製されています。条件付ノックアウトマウスは主に、遺伝子を欠損することで胎生致死(発生時期に分化の異常が生じ生まれてこない)や出産直後致死となる分子の機能解析や成体での遺伝子の機能解析を目的として作製されます。
なぜマウスなのか
マウスはほかの生物よりも遺伝子ノックアウトの技法が比較的容易で臓器の位置や構造もヒトに近いためです。
がん遺伝子や糖尿病遺伝子等疾患の原因遺伝子であることが想定される遺伝子が標的となることが多く、ヒトの生理機能に関連した研究に用いられます。また、繁殖能力が高く、簡便に飼育できるのも大きな理由です。
ノックアウトマウスの作製法
- ターゲッティングベクターの構築
- ノックアウトする遺伝子を確定したらゲノムライブラリーの情報に基づいてターゲティングベクターを作ります。ターゲティングベクターの作製法にはゲノミックDNAをスクリーニングしベクターに組み込む方法とPCR法により目的の遺伝子を増幅しベクターに組み込む方法があります。
- ES細胞の相同組み換え、クローン化
- できたターゲティングベクターを、ES細胞(胚性幹細胞)にエレクトロポレーション法(電気刺激を細胞に与え遺伝子を導入する方法)で導入し、相同組換えが起きた細胞を選択(クローン化)していきます。なお、相同組み換えが起こった細胞を胚盤胞(受精後3~5日目の胚)に入れて1固体を形成させるため、この工程では全能性(どんな細胞にもなることができる性質)をもつES細胞を用います。
- キメラマウスの作製
- クローン化したES細胞を胚盤胞にインジェクションします。この胚盤胞をマウスの子宮にいれ、着床すればキメラマウスが生まれてきます。
- キメラマウスと野生型マウスの交配
- キメラマウスは遺伝子が欠損したノックアウト細胞と遺伝子が正常な野生型の細胞を併せ持ちます。完全に遺伝子が欠損したマウスを得るには、野生型のマウスと遺伝子欠損した生殖細胞をもつキメラマウスを交配し、ヘテロ欠損マウスを作製します。このヘテロ欠損マウス同士をかけ合わせることで完全に遺伝子が欠損したマウスを得ることができます。